当然だろう。息子の隣に異性が並べば、母親として気になるのは当たり前だ。
問われてグッと言葉に詰まる美鶴の肩に、スルリと慎二の腕がまわった。
「母さん」
そう言って、少し声を潜ませる。
「あまり、野暮な質問はしないでくださいね」
「やっ 野暮?」
見下ろしてくる息子の瞳が、おもしろそうに細められる。浮かぶ笑みは実に意味深で、まるで悪戯を楽しむかのような含み。
受ける母親には、笑みを浮かべる余裕はない。
別に恨みや嫌悪ではないだろうが、それほど親密とも思えない。
むしろ対立? 不仲を思わせるような視線の火花。火花と表現するのは些か度が過ぎるかもしれないが―――
憮然と問い返す母親に、慎二は平然と受け答える。
「誘いは受けたんだ。文句を言われる筋合いはない」
「文句を言ってるんじゃないの。説明して欲しいって言ってるのよ」
「何の?」
聖美はそこで一度口を閉じ、背筋を伸ばして身を正した。
「どのようなご関係なの?」
「友人ですよ」
「友人? どちらの?」
「さぁ どちらのでしょうねぇ?」
ぬらりくらりと質問を避わす息子の態度に、かなりイラついている様子の聖美。その顔を、横から別の女性が覗き込んだ。
「まぁ まぁ」
宥めるように口を開く女性は、聖美に負けず劣らず華やか。だが、どことなくサッパリとした雰囲気も漂わせている。
深くとも鮮やかな青い衣装が、そう魅せているのだろうか?
「慎二くんが来てくれただけでも、良しとしたら?」
女性の言葉に口を曲げ、改めて息子を見上げた。
「後でちゃんと、説明してもらうからね」
捨て台詞とでも取れるような言い草でそう残すと、聖美はクルリと背を向け、その場を離れていった。
その背中へ視線を投げ、ゆっくりと女性が向き直る。
「聖美の態度も、理解できるわよね?」
確認するように上目遣いで見上げ、そうしてチラリと美鶴を見やる。
「慎二くんからは、お友達を連れてくる としか知らされていなかったのよ。だからてっきり、男性の方が来ると思っていたの」
まぁ 当然だよな
「まさか慎二くんの、女性をエスコートする姿が拝めるなんて、思ってもみなかったわ」
「それは、褒め言葉と取っても良いのですか?」
澄ました慎二の態度に、女性はふふっと品良く笑う。
「もちろんよ」
手にしたシャンパンのグラスに口をつける。そうして、やおら美鶴と向き直った。
「私、小窪青羅と申します。Sera・Kの代表を務めておりますの」
高校生の小娘相手に激しく丁寧なご挨拶。だが、それを嫌味だと感じさせないのは、ただ単に衣装のせいというワケではない。小窪青羅という女性の、コザッパリとした性格故のようだ。
「まだ学生さんのようだから、化粧品にはあまり縁がないかしら?」
「はぁ まぁ」
「素敵なお肌。さすがにお若いからね。でも、若いうちからのお手入れがカンジンよ」
そう言って、ピンと人差し指で美鶴の左頬を指す。
「お帰りにお土産もご用意していますから、よろしかったら使ってみてね」
「あ、はい…… あっ でも使い切ったら、また直営店で補充しないといけないんですよね?」
美鶴の言葉に青羅は一瞬言葉を失い、次の瞬間にはカラカラと笑った。元気のよい笑い声だが、その声も、口元に添える右手も、なんとなく品が漂う。
「ずいぶん詳しいじゃないか」
傍らから、慎二が面白そうに顔を覗き込んでくる。
「やっぱり、女性は化粧品には興味アリかな?」
「あっ いえ、そういうワケじゃなくって」
「じゃあ、パーティーのために予習してきたってところかしら?」
「そそそっ そういうワケじゃあ……」
この場合、本当のコトを言ってしまうべきだろうか?
思わぬ突込みに動揺する美鶴を、青羅が面白そうに見つめる。
金色のスパークリング。添える指の、ネイルの鮮やか。
言葉には現さない含み。
もうどう答えてよいのかわからず口をパクパクさせる美鶴へ、彼女はそれ以上返答を要求はしない。ただニッコリと視線を投げ、再び慎二を仰いだ。
「それはそうと、話を少し戻そうかしら?」
|